201509/10

アトピー性皮膚炎の原因は潔癖?自ら生み出したアトピーの対策法

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
洗顔する女性

アトピー性皮膚炎の多くは子供のころに発症しますが、アメリカにあるオレゴン健康科学大学皮膚科のエリック・シンプソン教授は、乳児期の赤ちゃんを洗いすぎることがアトピー性皮膚炎の原因ではないかといいます。

赤ちゃんの皮膚は生まれて1週間程経つと皮脂が少なくなってしまい、思春期を迎えるまで皮脂の少ない状態が続きます。だから赤ちゃんや子供の皮膚は大人よりも乾燥しやすく、過度な入浴など乾燥しやすい皮膚環境がアトピー性皮膚炎の原因を作っているというのです。

シンプソン教授によれば、アトピー性皮膚炎を治すためには、皮膚の清潔を保ちつつ乾燥させないことが最も重要だといいます。赤ちゃんから大人まで、日本でアトピー性皮膚炎に悩む人は1000万人を超えるといいます。なぜ、皮膚の乾燥がアトピーを引き起こすのか、乾燥させないためにはどうすればいいのかを考えてみました。

ドライシンドローム

からだが乾燥することで起こる病気には、ドライアイ、ドライマウス、ドライスキンなどがあり、これらの乾燥が原因となる病気を総称してドライシンドローム(乾燥症候群)といいます。また、全身の分泌腺が機能不良を起こして、ドライアイやドライマウスなどを併発してしまうシェーグレン症候群という自己免疫疾患もあります。

健康な状態の皮膚

皮脂の分泌が少ない部位は皮膚の乾燥が助長されるので表面に浅いひび割れが出やすくなります。この状態を皮脂欠乏症(ドライスキン)、俗に「乾燥肌」と呼ばれています。

 

乾燥肌の状態を呈した皮膚

ドライスキンの場合は角層が脆弱になり、外界からアレルゲンの皮膚内部への侵入を容易にしてしまいす。出典:みどり皮ふ科クリニック

現代人のからだが乾いてしまう原因はいろいろありますが、エアコンによる冷暖房は最たるもので、そこにパソコンやスマホ、ゲームなどによるまばたき不足が加わっておこる病気がドライアイです。

柔らかい食べ物ばかり好んで食べていると、あごの骨格や筋力が衰えて、いつもポカンと口をあけた状態になってしまいます。しかも食べ物を良く噛まないから唾液の分泌量も少なくなり、ドライマウスが起こります。

そして、過剰なまでの清潔志向による洗いすぎで皮膚の乾燥を招くドライスキン。体臭を気にしすぎるあまり、毎日朝晩2回シャワーを使うという人も多いのではないでしょうか。

乾燥は体を危機にさらす

1日に流れる涙の量は大人で0.5ml~1mlほどしかありません。しかし、このわずかな量の涙には眼球を異物から保護し、細菌など外的の侵入を阻止する抗菌性という重要な役割があります。ところが、エアコンの効いたオフィスでのパソコン作業、スマホやゲーム、コンタクトレンズなどドライアイのリスク要因はとても多く、OLやビジネスマンのほとんどがドライアイかその予備軍といわれています。

一方、唾液はでんぷんを分解する消化酵素を含み、食べ物を消化管に流しこみやすくすることが主な働きですが、実は細菌などから感染を防御する機能も担っています。気管や食道など体内粘膜に直接通じている口腔はもっとも感染しやすい場所です。そのため、唾液の中にはラクトフェリンという抗菌成分が含まれているのです。

涙や唾液などの分泌物には、からだを感染から守る最前線としての防御機能があるので、ドライアイやドライマウスになると、細菌やウイルスなど外敵の侵入を許してしまいます。そして、皮膚の上を覆う皮脂膜も、バリアとして外敵からからだを守る働きをしているのです。

皮膚の水分がからだを守る

皮膚は表面にある0.2ミリほどの表皮と、その下側にある約2㎜の真皮とにわかれます。表皮は角層、顆粒層、有棘層、基底層の4層構造となっており、いちばん上の角層は、規則正しく並んだ角層細胞の間をセラミドを主成分とする細胞間脂質が埋め尽くす「ラメラ構造」を形成しています。

角層の細胞間脂質(イメージ)

角層を構成する角層細胞の間には、「細胞間脂質」という脂質があります。出典:花王株式会社 スキンケアナビ

表皮の角層はからだにとって非常に重要な体内の水分が蒸発するのを防ぐ内的バリアとして機能しています。さらに、外敵や有毒物質、物理的な刺激から肉体を守る外的バリアとしての役割も果たしているのです。角層細胞の間にあるセラミドが水分を保持することで、表皮は人体を守っているといえるでしょう。

角層内のセラミドの構造と機能

細胞間脂質は、角層細胞の間で、「セラミド」などからなる脂質の層と水分子の層が、交互に規則正しく何層も重なりあう「ラメラ構造」という層状構造を形成し、角層の働きを支えています。

出典:花王株式会社 セラミドの話

なぜなら、人のからだは半分以上が水でできており、大人では体重の60~65%、子供では70%、赤ちゃんではおよそ75%を水分が占めているからです。人は体内の水分を20%失うと死に至る、といわれており、10%程度の脱水でも腎不全やけいれんを起こすほどのダメージを受けてしまいます。

人間の体はほとんどが水でできています。子どもでは約70%、成人では約60~65%、老人では50~55%が体を水で占めているのです。出典:サントリー 水大事典

乾燥がアトピー性皮膚炎を招く

表皮は角層に水分を保持することでバリア機能を果たしています。しかし、基底層から生まれる皮膚細胞によって表皮の角質細胞も入れ替わります。いわゆるターンオーバーをくりかえし、死んだ細胞は垢となって表面から剥がれ落ちていくのです。

そこで角層を守るためのさらなるバリアとして機能するのが皮脂の存在です。皮脂は角層の表面に皮脂膜をつくりますが、皮脂膜はそこに棲む常在菌によって弱酸性に保たれ、有害な細菌やカビの侵入を防いでいます。

最近わかったことなのですが、皮膚には200種類以上の常在菌が棲んでおり、独自の生態系を維持しています。なんらかの原因でこの細菌バランスがくずれると、たちまち悪玉菌が増えてアトピー性皮膚炎を発症させるのです。そして、細菌バランスを乱す最大の原因が乾燥だといわれているのです。

子どもの皮膚は乾燥に弱い

生まれたばかりの赤ちゃんにはお母さんの性ホルモンが残っており、皮脂の分泌が活発です。でも、生後1週間を過ぎるころにはお母さんのホルモンによる影響は弱まり、皮脂の分泌が減少します。

皮脂の分泌は性ホルモンによってコントロールされているので、第二次性徴期を迎える思春期になるころまで皮脂の分泌は少ない状態が続きます。アトピー性皮膚炎の多くが子供のころに発症するのは皮脂の分泌量と関係があると考えられています。

保湿するだけでアトピー3割減の真実

国立成育医療研究センターで行われた研究で、新生児に1日1回ワセリンによる保湿を施すとアトピー性皮膚炎の発症が3割低下したといいます。

新生児期の保湿がアトピー発症率を3割減に
成育医療センターがJ Allergy Clin Immunol誌に発表
国立成育医療研究センター生体防御系内科部アレルギー科医長の大矢幸弘氏(写真左)らは10月1日、新生児期からの保湿剤の塗布により、アトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下することが、成育出生コホート研究におけるランダム化比較試験(RCT)で示されたと発表した。
2014/10/3 加納亜子=日経メディカル
出典:日経メディカル 2014年10月2日(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

この研究では、両親か兄弟にアトピー性皮膚炎の既往歴がある、いわゆる「アトピー素因」のある新生児118人を2グループにわけ、片方のグループにのみ1日1回ワセリン塗布による保湿をしました。

32週間後にアトピーの発症率を調べるとワセリンを塗ったグループでは、塗らなかったグループに比べてアトピー発症率が3割低かったと報告しています。また、アレルギー反応を起こす抗体の検査においては、どちらのグループにも差は見られませんでしたが、アトピー性の皮膚症状を発症した子どもは抗体の量が多かったとしています。

アトピー性皮膚炎はこれまでアレルギーによるもの、と考えられてきましたが、実際には皮膚の乾燥でアトピーを発症したためにアレルギーになった、あるいは皮膚の乾燥がアレルギーの原因となる可能性を示しています。

皮膚はかつてレーダーだった?

皮膚の表皮は厚さわずか0.2㎜、真皮で2㎜程度しかありませんが、総面積は畳1枚分ほどもあり、重さは3㎏にもなる人体最大の臓器です。そんな皮膚の役割は、水分の蒸発防止や外界との境界バリア機能だけではありません。熱交換や皮膚呼吸、ビタミンDの合成なども重要な機能ですが、さらに重要な働きとして刺激の伝達、つまり触覚があげられます。

資生堂の新成長領域研究開発センター主任研究員の傳田光洋さんによれば、皮膚は耳では聴くことのできない高周波音を感知する機能があり、それがからだの免疫系に影響をもたらすそうです。

バリア機能を失った皮膚に対して、耳で聴くことのできない1万~3万ヘルツの音を皮膚に向けて照射するとバリア機能が回復したそうです。この現象は可聴域の周波数では起こらなかったといいます。

はるかな進化の歴史の中で、水中から陸上へと棲息域を移すため、私たちの祖先は皮膚を手に入れました。皮膚はそれまでからだの周囲にあって必要不可欠な水を、体の中に閉じこめるために必要だったのです。そうして陸にあがった私たちの祖先は、さまざまな外敵や天災に遭遇し、それらがもたらす危険を察知するために、皮膚は進化したのではないかと言われています。

本来、皮膚の聴覚には危機の存在を察知するレーダーのような役割があったと考えられます。人間の進化とともに皮膚のレーダー機能は失われていきましたが、そのころの名残りがまだ残っているのではないでしょうか。

ストレスが皮膚バリアを破壊する

外界からもたらされるさまざまな危機に対して瞬時に反応しなければならない皮膚聴覚は、レーダー機能を失った今でも脳と密接につながるネットワークを残しています。そして、このネットワークは一方通行ではなく、皮膚と脳は双方向の情報をやりとりしています。

ですから、過度のストレスを受けると、皮膚も他の臓器同様、機能に異常をきたしてしまいます。皮脂の分泌がうまくコントロールできなくなり、常在菌の細菌叢は乱れて、アトピーを引きおこしたり悪化させる要因となるのです。

反対に、抱擁や愛撫など心地良い皮膚接触を受けると、俗に「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンの分泌量がふえます。生まれたばかりのマウスを母親と引き離して接触させないとオキシトシンの分泌量は低下し、ストレスが蓄積することで皮膚症状を起こす原因となります。

夫婦共働きが当たり前の現代ではかつての子育てと環境が大きく異なります。子どもとのスキンシップも昔とは比べ物にならないほど減っています。スキンシップとは直訳すれば「皮膚の精神」、英語で正しくはPhysical intimacy(=愛撫)といいます。まさに、皮膚は精神の鏡であり、ストレスを受けることで皮膚の状態が悪くなるのは当たり前のことなのかもしれません。

アトピーケアは基本に忠実に

冒頭のオレゴン健康科学大学のシンプソン教授は、エアコンによる乾燥や汚染物質による化学的ストレスのほかに、入浴の頻度と入浴後の保湿不足がアトピーを引き起こす原因だと考えています。乳児の入浴頻度は本来、週に2~3回程度で十分で、多くの赤ちゃんは洗いすぎなのではないかといいます。

また、入浴後には適切な保湿の処置が必要だともいいます。赤ちゃんの皮膚は常在菌による細菌叢もまだ未熟で、常在菌までもが必要以上に洗い流されている可能性があります。加えて入浴後の保湿が不十分では、赤ちゃんのデリケートな皮膚は黄色ブドウ球菌が蔓延して、アトピー性皮膚炎を発症してしまうでしょう。

よく「おむつの中と鼻にはアトピー湿疹はできない」といわれます。確かに、アトピー性皮膚炎で顔にひどい湿疹ができても、不思議と鼻のあたまはきれいなままです。なぜなら、おむつの中は湿度が高く、鼻のあたまは皮脂が大量に分泌されているので乾燥しないからです。

やはりアトピー対処法の基本は、大人も子供も体を洗いすぎず、入浴後は保湿剤を使用してスキンケアをすることにつきるようです。

参考:パックスベビー ボディークリーム

乾燥しがちな肌を保湿できる石けんで乳化した化学物質を使用しないベビー用保湿クリームです。出典:太陽油脂株式会社「パックスベビー」

参考:ユニリーバ ヴァセリン・ピュアスキンジェリー・オリジナル

ピュアスキンジェリーは、ワセリンの天然保湿スキンオイルでできていて、赤ちゃんのデリケートな肌から大人まで、乾燥しやすい部分に使用することができます。出典:ユニリーバ・ジャパン

参考:セタフィル モイスチャライジングクリーム

モイスチャライジングクリームは、肌の角質層のまで浸透してうるおいを与え、肌本来の保湿力と水分保持力をサポートします。出典:セタフィル

まとめ

かつて昭和30年代ごろまでは家に風呂のある世帯は少なく、毎日入浴する家庭はそれほど多くはありませんでした。しかし、今では昭和のころと比べ物にならないほど生活が豊かになって、風呂やエアコンが家にあるのは当たり前、より快適に、より清潔に、と求めるものが大きく様変わりしました。

私たちが快適さや清潔さを追い求めるあまり、からだ本来の機能が失われてアトピー性皮膚炎を作り出してしまった、ともいえるのではないでしょうか。あるいは、アトピー性皮膚炎とは病気ではなくて、私たちのからだが本来持っているはずの何かが失われた状態なのかもしれません。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントはこちら

*