201602/10

がんから認知症まで!葉酸効果が生活習慣病に及ぼす影響

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妊娠中の女性

おなかの中にいる胎児の発育に欠かせない葉酸ですが、実はおとなにとっても欠かせない栄養素であることを忘れてはいけません。葉酸が不足すると、がん、心臓病、脳卒中、認知症などのリスクが高まることが知られています。

厚生労働省では妊娠を計画している人や妊娠中の女性に対して、1日400マイクログラムの葉酸をサプリメントで追加摂取することを勧めています。しかし、サプリメントから高容量の葉酸を摂りつづけることはがんのリスクを高めるという研究報告もあります。

葉酸が加齢に伴う生活習慣病に及ぼす影響と、おとなのための上手な葉酸の摂り方についてご説明しましょう。

葉酸の働き

葉酸はビタミンB群の一種で、体内では細胞の分裂に関わっています。葉酸は酵素やほかのB群ビタミンによって代謝され、その過程で細胞の遺伝情報を制御しています。葉酸が代謝を受けることで、DNAの一部が使えなくなり複製されなくなりますが、こうして使用する遺伝子を選択することで、皮膚の細胞は皮膚に、胃の細胞は胃になることができるのです。これを「DNAのメチル化」と呼びます。

DNAのメチル化の構造図

卵子は受精した後、いったんすべての細胞になれる状態に移行します。これを「脱メチル化」といいますが、世界的に大きな物議を醸したあのSTAP細胞は、メチル化された細胞に物理的な刺激を与えることで脱メチル化した状態に戻すことができる、という一般常識ではあり得ない理論に基づいています。しかし、がん細胞はこれに近い状態にあると考えられます。

DNAメチル化状態の図解出典:テルモ生命科学芸術財団

がんのメカニズム

がん発生のメカニズムやその病態についてはさまざまであって一概にはいえませんが、非常におおざっぱにいうと、DNAのコピーミスから生まれた異常細胞が増殖を繰り返し、正常細胞を凌駕してしまう病気、ということができます。

DNAのコピーミスから異常細胞が増殖する状態

がん遺伝子の活性化状態

がん抑制遺伝子の不活化状態

出典:がん情報サービス

DNAにはがんを促進してしまう遺伝子と、がんを抑制する遺伝子の両方があり、通常はバランスが保たれていますが、なんらかの要因によってバランスが崩れるとがんが発現すると考えられています。

葉酸とがん

DNAは塩基とよばれる4種類の化合物が順序良く配列されており、通常は正しい順序でコピーされるものです。しかし、あってはいけない場所に異なる塩基が挿入されたり、DNAの鎖が途中で切れたりしていた場合、そのままコピーされることで異常細胞が出来上がってしまいます。

また、正しいコピーをするためには、コピーする領域をきちんと指定してあげなければなりません。これらの役割を担うのが遺伝子のプロモーター領域で、遺伝子の正常な発現を担っています。ところが、このプロモーター領域がメチル化されてしまうと正しいDNAのコピーがうまくいかず、がん化につながると考えられています。

遺伝子発現活性化と抑制出典:がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動

現在、使用されている抗がん剤には葉酸の代謝を阻害してがんの増殖を抑えるタイプのものがありますが、がん細胞は分裂の速度が速く、葉酸の要求量も通常の細胞とはけた違いです。このため、葉酸の代謝を阻害してがんDNAのメチル化を抑えるのが、この抗がん剤の働きです。

通常の葉酸代謝

通常の葉酸代謝の流れ

葉酸代謝阻害薬の働き

葉酸代謝阻害薬の働きの流れ

葉酸代謝阻害薬を使用するときは、正常細胞に必要な葉酸を補給してあげなければなりません。ですからこのタイプの抗がん剤を使用するときは、葉酸を医薬品として投与します。

葉酸が不足するとDNAのメチル化が不十分になることで、遺伝子のミスコピーが多くなりがんのリスクが高くなると考えられますが、一方でがんが発生している状態での葉酸摂取は、がんの進行を促進してしまう可能性もあります。

実際、多くの研究でがん予防に関する効果と、がんの発症やがん死の増加を示す報告の両方がみられます。葉酸の摂取はがんの予防には有効と思われますが、がんを発症した場合には慎重にならなければなりません。

ホモシステインと生活習慣病

動物の体内で合成できないアミノ酸を必須アミノ酸といい、十分な量を食事から摂取する必要があります。ヒトにとっての必須アミノ酸はぜんぶで9種類あり、そのうちの一つであるメチオニンはDNAをメチル化する酵素の原料として使われます。

DNAのメチル化に使用されたメチオニンはホモシステインとなりますが、このホモシステインをメチオニンに再生するのが葉酸の役割です。

DNAのメチル化と葉酸代謝の図解

DNAのメチル化に使用されてホモシステインとなったメチオニンは、葉酸とビタミンB12によってメチオニンに再生され、また一部のホモシステインはビタミンB6によってシステインに変換されます。システインは髪の毛や皮膚のもととなるアミノ酸で、抗酸化物質グルタチオンの原料でもあります。

しかし、葉酸やビタミンB12、B6などの不足により、ホモシステインがうまくリサイクルされないと過剰になったホモシステインは血液中に放出されます。血液中のホモシステインが増えすぎると、貪食細胞マクロファージに食べられて血管壁に付着し、動脈硬化の原因となります。

DNAのメチル化に使用されてホモシステインとなったメチオニン

ホモシステインがリサイクルされないと過剰なホモシステインは血液中に放出されます出典:第一薬品工業

葉酸不足は血液中のホモシステインを増やして動脈硬化を招きますが、動脈硬化は心筋梗塞などの心血管疾患や脳梗塞など脳血管疾患の直接原因となります。また、動脈が固くなることで血圧が上昇、高血圧から腎臓病に至ることもあります。特に糖尿病の基礎疾患があるときは要注意です。このように、葉酸不足から起こる高ホモシステイン血症は、動脈硬化を引き起こし、さまざまな生活習慣病の引き金となる可能性があるのです。

葉酸と認知症

超高齢社会の到来とともに認知症の急増が社会問題となっていますが、厚生労働省によれば2012年の段階で65歳以上の認知症患者は462万人、認知症予備軍は約400万人と推定されています。

65歳以上の高齢者における認知度の現状出典:政府広報オンライン

また、このままの状況が進めば2025年の認知症患者は現在の1.5倍、実に700万人に増えると予想しています。

認知症高齢者の増加の予想

認知症はなんらかの原因によって脳の細胞が死んでしまうことが原因起こる病気です。主な認知症に4種類の原因があり、なかでもアルツハイマー型認知症は、認知症全体の60~70%を占めるといわれています。

「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違い(一例)

加齢によるもの忘れ 認知症によるもの忘れ
体験したこと 一部を忘れる
例)朝ごはんのメニュー
すべてを忘れている
例)朝ごはんを食べたこと自体
もの忘れの自覚 ある ない
探し物に対して (自分で)
努力して見つけようとする
誰かが盗ったなどと、
他人のせいにすることがある
日常生活への支障 ない ある
症状の進行 極めて徐々にしか進行しない 進行する

また、認知症の疾患として、代表的なものは次のとおりです。いくつかの認知症の原因として、異常なタンパク質が脳に溜まることや、脳の神経細胞が死ぬことにより発症することが報告されています。

「アルツハイマー型認知症」
最も多いパターン。記憶障害(もの忘れ)から始まる場合が多く、他の主な症状としては、段取りが立てられない、気候に合った服が選べない、薬の管理ができないなど。

「脳血管性認知症」
脳梗塞や脳出血、脳動脈硬化などによって、一部の神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、神経細胞が死んだり神経のネットワークが壊れたりする。記憶障害や言語障害などが現れやすく、アルツハイマー型と比べて早いうちから歩行障害も出やすい。

「レビー小体型認知症」
幻視や筋肉のこわばり(パーキンソン症状)などを伴う。

「前頭側頭型認知症」
会話中に突然立ち去る、万引きをする、同じ行為を繰り返すなど性格変化と社交性の欠如が現れやすい。

なお、遺伝によるケースは稀であり、さらに働き盛りの世代でも発症するおそれもあることから、認知症は誰にでも起こりうる病気と言えます。

政府広報オンライン

アルツハイマー病は20世紀の初めごろ、ドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーによって発見されました。最初の患者が40歳代で発症、50歳代で死亡したこともあり、当初は初老期における進行性の記憶障害と考えられていましたが、1960年代以降の症例研究から高齢者の認知症と同じ病気であることがわかりました。

アルツハイマー病の危険因子としては、食習慣や運動習慣、喫煙などがあげられていますが、その原因は長いあいだ不明でした。なぜなら、アルツハイマー病はアミロイドベータというたんぱく質が蓄積して起こる病気だと考えられていたからです。しかし、現在ではアミロイドベータの蓄積を引き金に「タウ」というたんぱく質が集まり、脳神経細胞を線維化して破壊することで脳を委縮させる病気だということがわかっています。

アルツハイマー病の大脳皮質に出現する病理変化出典:Helthil

アルツハイマー病ではタウたんぱくが糸くずのように撚り集まって細胞を線維化してしまい、脳が委縮することが知られていますが、福井大学の研究によれば血液中のホモシステインはタウたんぱくの凝集を促進し、アルツハイマーの症状を進行させるとしています。

ビタミンB12欠乏症による認知症発症の流れの図解出典:葉酸・ビタミンB12欠乏症による認知症発症機序の解明

この研究によれば、葉酸とビタミンB12の欠乏はアルツハイマー型認知症の危険因子であり、逆にいえば、葉酸とビタミンB12の十分な摂取はアルツハイマー病の予防に欠かせないといえるでしょう。

しかし、サプリメントによる高容量の葉酸摂取はがんのリスク要因となる可能性もあり、妊娠中や妊娠計画中の女性以外では、高容量の葉酸を長期にわたって継続的に摂取するべきではないともいえます。男性や妊娠予定のない一般の女性は食事から十分量の葉酸を摂るように努めるべきでしょう。

大人の葉酸摂取法

成人における葉酸の一日摂取推奨量は240マイクログラムです。わずか1万分の2.4グラム、0.00024グラムにすぎませんが、これだけの量の葉酸を食事から摂ろうとすると、およそ350グラムの野菜に相当するといわれています。

葉酸の食事摂取基準表

出典:健康食品の安全性有効性情報

また、葉酸は水に溶けだしやすく熱にも弱いため、食材に含まれる葉酸の半分は調理によって失われてしまいます。さらに、葉酸には食材に含まれる「ポリ型」と実際に体内で働く「モノ型」とがあり、食事から摂取した「ポリ型」のうち「モノ型」に代謝されるのは、平均すると50%程度と考えられています。

平成23年度の国民健康・栄養調査によると成人の葉酸摂取量はおよそ300マイクログラムで、一見すると推奨量を満たしているように思えますが、実は調理による損失が考慮されていないため、実際にはその半分、150マイクログラム程度と考えたほうがいいでしょう。

食事からの葉酸摂取量を増やすには、「モノ型」にしてあと100マイクログラム、「ポリ型」で考えると200マイクログラムの摂取が必要で、調理損失を考慮すれば400マイクログラムの追加摂取が必要です。

葉酸が食品やサプリメントに含まれる量

出典:日本メディカルセンター

ご覧のように食材でもっとも多く葉酸を含むのはレバーで、100グラム中に1000マイクログラム超の葉酸を含みます。焼き鳥のレバーは1本30~50グラム程度ですから、400~650マイクログラムの葉酸を摂れる計算です。

また、表にはありませんがニラともやしも葉酸が豊富な野菜です。レバニラ炒め一人前でおよそ500マイクログラムの葉酸を摂ることができます。ただし、レバーにはビタミンA が多く含まれており、過剰摂取は胎児に催奇形性があるとされています。妊娠中はレバーの摂取は控えめにしましょう。

葉酸が豊富なレバー料理

もうひとつ、あなどれないのが海苔の葉酸含有量です。上の表でもわかる通り、ほかの食品が100グラムあたりの葉酸量なのに対し、海苔は全形一枚でサツマイモの葉酸量を上回ります。葉酸と共に働くビタミンB12も豊富で、魚介類とともに食べればさらに効果的です。手巻き寿司はレバニラに匹敵する葉酸料理といえるでしょう。

海苔

なお、葉酸はアルコールを多量に摂取すると吸収が阻害されます。お酒を飲むときはレバーや枝豆、海苔などで積極的に葉酸を摂りましょう。とはいえ、あくまでも土台となる基礎的な部分は普段の食事から、が原則です。普段の食事がおろそかになりがちな人はビール酵母などで少量の葉酸を追加することをおススメします。(1日におよそ100マイクログラムの葉酸が摂取できます)

エビオス錠出典:エビオス錠

スーパービール酵母V出典:スーパービール酵母V

まとめ

妊活中、妊娠中の女性だけでなく全世代にとって必要不可欠な葉酸ですが、妊娠中以外の方は、サプリメントからの摂取をなるべく避けたいものです。特にがんの場合には禁忌といえるので、医師への相談なしに葉酸サプリの使用はやめましょう。また、食事から摂取する場合はレバーが有効ですが、妊娠中の女性は控えめにしておきましょう。

習慣的にお酒を飲む方は葉酸不足に陥りやすい傾向にありますが、レバーやビール酵母はプリン体の含有量が多いので痛風や尿酸値の高い方にはお勧めできません。海苔や野菜、穀類などを積極的に食べるよう心がけて、葉酸不足にならないよう心がけましょう。

葉酸不足は万病のもと、個人の体調や生活習慣に応じて、上手に摂りたいものですね。

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