201703/15

高齢出産は葉酸、ビタミン群が不可欠な栄養素として摂取すべき根拠

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高齢出産と葉酸

35歳以上でまでの出産や高齢出産を控える妊娠中の女性に欠かせない栄養素として知られる葉酸は、今から70年ほど前にホウレンソウから発見されました。葉酸はDNAの合成に欠かせない補酵素として働き、胎児の生育に欠かせない栄養素であることから、厚生労働省では妊婦や妊娠を望む女性にサプリメントでの十分な摂取を呼び掛けています。

葉酸は非常に壊れやすいビタミン

葉酸は、プテリジン、パラアミノ安息香酸、グルタミン酸が結合した化合物で、自然の食品ではホウレンソウなど緑黄色野菜のほか、果物、レバーなどに多く含まれています。また、他のビタミンB群とともに腸内細菌によっても合成されています。しかし、葉酸は非常に壊れやすいビタミンで、調理や保存の過程でその多くが失われてしまうのです。

野菜などに含まれる天然の葉酸は、グルタミン酸が複数結合した「ポリグルタミン酸」型で、体内の酵素によって「モノグルタミン酸」型に分解されないと吸収できません。このため、体内で利用できるのは天然の「ポリグルタミン酸」では、摂取量の25~80%といわれています。また、葉酸は飲酒や薬の服用でも吸収が妨げられたり、モノグルタミン酸への代謝が阻害されるので、十分な量を食事の中から毎日補給しなければならないのです。

モノグルタミン酸型となり吸収された葉酸は、酵素によってテトラヒドロ葉酸となり、さらに別の形態へと代謝される中でDNAを合成する補酵素として働きます。特に細胞分裂が盛んな部位では、DNAをたくさん合成するために葉酸の欠乏が深刻な影響を与えることがあります。

高齢出産であっても葉酸は不可欠な栄養素

赤血球をつくるのにも葉酸とビタミンB12は不可欠で、欠乏すると巨赤芽球貧血という悪性貧血が起こることが知られています。葉酸の欠乏は動脈硬化や糖尿病のリスクを高め、さらには免疫機能の低下や子宮頸がんのリスクも高まるといわれています。詳しくは、妊娠女性に葉酸の重要な栄養素摂取を厚生労働省が勧めるをお読みください。

卵巣において卵胞から卵子に至る過程で、あるいは受精卵が細胞分裂を繰り返すときに、高齢出産であっても葉酸は不可欠な栄養素であり、欠乏すると流産や胎児に二分脊椎症や無脳症などの神経管閉鎖障害を引き起こします。このようなリスクを下げるために、女性は十分な量の葉酸を摂取するべきといえますが、実は葉酸にはほかにも重要な役割があるのです。

下の図は葉酸が代謝されるサイクルを示していますが、葉酸からテトラヒドロ葉酸に変化する一連のサイクルがDNAの合成に関与する一方で、ビタミンB6、ビタミンB12とともにホモシステインをメチオニンに変換する役割も担っています。ホモシステインとはアミノ酸の一種ですが、血液中に増えすぎると血栓をつくり動脈硬化を引き起こすと考えられています。

妊婦への栄養の欠如やストレス、過剰労働、睡眠不足などがメチル基を枯渇させる原因になっています。これらが複合すると、メチレーション回路の機能は低下します。出典:医科歯科連携診療普及協会

ホモシステインをリサイクルする為には葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12が必要

ホモシステインは細胞毒性があり、活性酸素を発生させて血管の内側にある組織細胞に傷害を与えます。このため、高ホモシステイン血症は動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳卒中、認知症の原因となることが知られています。この有毒なホモシステインをきちんとリサイクルするには葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12が欠かせません。

有害なホモシステインをメチオニンにリサイクルするには、葉酸を5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MTHF)に変換する酵素が必要です。この酵素はメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)という酵素で、MTHFR遺伝子によってつくられます。

しかし、この遺伝子に異常を持つひとは多く(遺伝子多型)、日本人でもなんらかの遺伝子多型を持つ人が少なくありません。中でも多いのがMTHFR C677に関する遺伝子多型です。

正常型は「C677C」、変異型 は「C677T」となりますが、遺伝子は父親と母親からひとつずつ受け継ぐので、組み合わせとしては、

  1. C677C+C677C
  2. C677C+C677T
  3. C677T+C677T

の3パターンがあります。

1.ならば障害のリスクゼロですが、
2.では40%、
3.では70%にリスクが高まるとされています。

この遺伝子多型を持つ人は、流産の高リスクや着床不全、ダウン症候群などの染色体異常が起こりやすく、成人ではアルツハイマーや自閉症、うつ病などとも関連するといわれています。

ホモシステイン血中濃度について葉酸遺伝子を分析した結果出典:ハーセリーズ

天然型葉酸の吸収率が下がり、相対的な葉酸欠乏に

C677の遺伝子多型はMTHFRの活性を弱めてしまうため、ホモシステインのリサイクルがうまくいかなくなるだけでなく、天然型葉酸の吸収率が下がり、相対的な葉酸欠乏が起こります。C677のほかにA1298という遺伝子型もあり、この両方に異常があるとさらにリスクが高まるといわれています。

MTHFR遺伝子多型はモノグルタミン酸型葉酸サプリ

近年、MTHFR遺伝子検査がかんたんに行えるようになっており、検査でMTHFR遺伝子多型が判明した方は「モノグルタミン酸」型の葉酸サプリを摂ることが推奨されています。

平成14年から16年度にかけて、ダウン症や染色体異常によると思われる流産胎児の母親の遺伝子多型について名古屋市立大学による調査が行われ、その結果、染色体異常を持つ流産胎児の母親はMTHFR677の遺伝子多型頻度が有意に高かったとしています。この調査では遺伝子多型による血中ホモシステイン濃度の高さが染色体異常の発生に関与しているのではないか、としています。

参考:日本人女性の葉酸代謝関連酵素遺伝子多型と先天異常

高齢出産の問題点

日本の平均初婚年齢は1980年ごろまでは25歳くらいでしたが、その後は晩婚化が進み、2013年には29.3歳となっています。晩婚化の背景にあるものは長く続く経済の停滞と就職難、ワーキングプアと呼ばれる低所得者層の増加があります。若い男性は経済的な自立がむずかしく、女性も若いうちは男性におとらずがむしゃらに働かざるを得ない状況が非婚化、晩婚化に拍車をかけています。

女性の年齢別未婚率の推移

年齢別未婚率の推移(女性)

平均初婚年齢と母親の平均出生時年齢の年次推移

平均初婚年齢と母親の平均出生時年齢の年次推移

晩婚化に伴って出産年齢も高齢化しており、1980年に26.4歳だった初産年齢は2013年には30.4歳となっています。高齢出産自体は高度経済成長期以前のほうがはるかに多く、40歳で子どもを産む人も珍しくありませんでした。しかし、当時は5~6人の多産が普通で、子どもの多い家庭では10人以上というケースも少なくありませんでした。高齢出産に伴うリスクは初産婦に比べて経産婦のほうが低いもので、当時は高齢出産でも子どもの多い妊婦は問題視されていませんでした。
出典:内閣府のホームページより(上下3つ共)

35歳以上の初産婦を要注意妊婦」位置づけています

現在、日本産婦人科学会では35歳以上の初産婦を「高年初産婦」として、分娩障害や染色体異常など、さまざまなリスクを負う「要注意妊婦」と位置づけています。しかし、それ以前に高年初産でもっとも大きな問題は「妊娠のしにくさ」にあるでしょう。

卵子は排卵されると卵管のなかを通って子宮へと移動を始めます。この途中で精子と出会い、受精して分裂を繰り返しながら子宮へ到達、女性ホルモンの働きによって発達した子宮内膜に着床することで妊娠がスタートします。しかし、高齢出産、いわゆる妊娠年齢が上がるにつれて着床率は下がるため、そもそも妊娠に至らないのが高年初産のいちばんの問題点といえます。

女性の卵子は、まだ母親の胎内にいる間にその原型である「原始卵胞」が作られます。それから十数年の間は細胞分裂せずに休眠しており、初経を迎えることで原始卵胞は分裂を再開、月経に至る中で毎回およそ1000分の1個が排卵までこぎつけるのです。

現在の高年初産婦は卵子の数が枯渇寸前に

かつて高齢出産の多かったころの日本では、初産年齢は20代前後が普通でした。妊娠中は排卵がありませんから、子どもが多い妊婦は40歳を迎えても出産経験のない女性に比べて卵子の数は多く残されていました。これに対して現在の高年初産婦は月経回数で昔の女性を上回り、初産の段階ですでに卵子の数が枯渇寸前になっています。

また、原始卵胞は胎児のころに作られてから少なくとも35年が経過しており、卵子もそのぶん歳を取っていることになります。30代後半になると肉体にあちこちトラブルが起こり始めるように、卵子もまたその質が低下し、受精に対する感度や細胞分裂の能力が低下し始めるのです。

妊娠初期に重要なDNAのリセット

細胞は分裂するときに、筋肉では筋肉の組織に、肝臓ならば肝臓の組織に、その他の臓器でもその場所に応じて、それぞれの組織を構成する細胞へと分化します。なぜ、そんなことがおこるのでしょうか。

DNAはA(アデニン)G(グアニン)C(シトシン)T(チミン)という4種類の「塩基」と呼ばれる物質から成っています。この配列によって遺伝情報が符号化されているのですが、では、どの遺伝情報を発現させて、細胞をどのように分化させるのか?それを決めているのが「メチル基(-CH3)」と呼ばれる目印なのです。

DNAはA(アデニン)T(チミン)C(シトシン)G(グアニン)の塩基が連なっていて、その配列によって遺伝子が決定され、アミノ酸を指定して、どんなタンパク質をつくるかが決まるのです。出典:テルモ生命科学芸術財団

メチル基による目印をつけることを「メチル化」と呼びますが、DNAのメチル化にはS-アデノシルメチオニン(SAM)というアミノ酸のメチル基が使用されます。SAMのメチル基がDNAに移ることでメチル化が起こるのですが、実はSAMのもととなるのがホモシステインであり、SAMを体内で合成するのに欠かせない物質が葉酸なのです。

遺伝子多型(MTHFR C677T, MTHFR A1298C, MTR A2756G, MTRR A66G)は、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素、メチオニン合成酵素、メチオニン合成酵素還元酵素に見られ、それらのタイプによって葉酸代謝に関わる体 質の差が生じます。出典:国立がん研究センター

葉酸不足

ここまでを整理してみましょう。まず、食事由来の葉酸は体内に入るとMTHFRという酵素によってテトラヒドロ葉酸となり、DNAの合成に必要な補酵素として働く一方で、ホモシステインからメチオニンを合成してDNAをメチル化している、ということになります。

葉酸不足は卵子や受精卵の遺伝子の発現を妨げる要因

つまり、摂取する葉酸そのものの不足、あるいはMTHFR遺伝子の遺伝子多型による葉酸不足は、DNAの合成能を低下させ、ホモシステインによる細胞の障害を引き起こし、DNAのメチル化を阻害して、卵子や受精卵の遺伝子の発現を妨げる要因となるのです。

奈良女子大学の中田理恵子准教授の実験によれば、葉酸欠乏食を与えたラットは肝臓内に蓄積されるSAMの量が著しく減少し、これが胎児のDNAメチル化に影響を与えることを明らかにしています。妊娠した葉酸欠乏食のラットのうち50%は妊娠を維持できず、生まれた仔ラットも体重が少なく成長の遅延が認められたそうです。

また、これらの仔ラットは成長すると中性脂肪をため込みやすい体質になるとされていますが、ヒトにおける低体重出生児に関しても、成人してからの肥満や心疾患、糖尿病などの代謝異常を発症する割合が高くなることが報告されています。

参考:妊娠期の葉酸摂取状況が次世代の健康に及ぼす影響とDNAメチル化の関与

参考:ドージンニュース エピジェネティクス機構による細胞状態とリプログラミング

DNAのメチル化が妊娠にとって非常に重要な役割をもつことはおわかり頂けたと思います。精子の遺伝子も卵子の遺伝子もかなりの部分がメチル化されていますが、実は受精卵になるとこれらのメチル化はいったん消去され、リセットされることが明らかにされています。これをリプログラミングといいますが、受精卵は精子と卵子由来のメチル化を脱してすべての細胞になれる状態、胚細胞となります。そして新たに自身由来のメチル化を再スタートしていきます。

精子の遺伝子も卵子の遺伝子も相当なDNAがメチル化されていますが、受精したとたんメチル化がいったんすべて消えてしまいます。この過程を、細胞分化のプログラムがいったんなくなりますので、リプログラミングと呼ばれます。出典:テルモ生命科学芸術財団

ところが、マウスを始め一般的な哺乳類ではこのようにいったん父母由来のメチル化は消去されますが、東北大学情報遺伝学の有馬教授によると、ヒトの受精卵では卵子由来のメチル化はかなりの部分が残されたまま胚細胞になるとしています。特に胎盤の遺伝子についてメチル化が維持されていることが判明しました。

ヒトの初期発生のメチル化の変化

ヒトでは卵子のメチル化は初期化を通し維持されることが解明されている。出典:生命誌ジャーナル

ヒトの場合、母体と胎児をつなぐ胎盤にある絨毛は、他の哺乳類に比べて非常に深く結合しており、これはヒトに特有の特徴として知られています。胎盤が発達しないと胚盤胞は子宮内膜に着床できず妊娠が成立しないか、母体との十分な結合ができず低栄養状態に置かれることになります。この点が受精卵のDNAメチル化と関連しているのかは不明ですが、ヒトのゲノム初期化が卵子由来のメチル化に大きな影響を受けていることは間違いありません。

高齢出産の場合卵子は老化している

繰り返しますが、高齢出産(高齢初産)の場合、卵子は胎児のころに作られてから35年以上が経過しています。この間に有毒物質や薬剤、有害な紫外線や自然界における放射線など、さまざまなストレスにさらされて母体同様に老化が進行しています。このような状態で質が低下した卵子は受精してから脱メチル化し、胚盤胞となるまでの間に正しい経過をたどることができず、着床できないか、着床しても妊娠を維持できない可能性があります。

また、妊娠が維持できたとしても染色体の複製に不完全な部分が残り、出生異常のリスクを高めることになります。最近の研究で、卵子が持つ長寿遺伝子を作動させてオートファジーを活発にすれば、卵子の質を若い頃のように高めることができる可能性が生まれてきています。しかし、この研究はまだ途上にあり現実化するには時間が必要です。

まとめ:葉酸、ビタミン群の摂取が必要です

妊婦や妊娠を望む女性、特に高年初産を考えている女性は健康な妊娠を維持するためにも葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6、ビタミンB2などのビタミンB群を適切に摂取することをおススメします。

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